ハート・リング通信 2014年

第11回 2014年10月

シンポジウムの演者から「噛むチカラの有効活用を」

ハート・リング運動 専務理事 早田雅美

 9月21日に開催したシンポジウム『「食べること」は「生きること」』の演者で、長年認知症予防の研究をされてきた小野塚實・日本体育大学教授に話をお聴きしました。
 「もう30年ほど昔になりますが私を可愛がってくれた叔父が認知症になり、回復の兆しもないまま亡くなりました。私が認知症の研究を始めるきっけでした」
 小野塚教授は、特に咀嚼と脳の関係や、噛む力と認知症の関係に注目され、これまで様々な実証研究を発表してこられました。
 「60年前、ほとんどの国民は豊かではありませんでした。一方で認知症も問題にされていませんでした。世界の認知症発症率を細かく見れば、認知症は豊かな国に発症する病気であると言えます」と言います。
 そして「中高年を対象に食前10分間のガムチューイングを9週間続けたところ、糖尿病因子であるHbA1cの明らかな減少が認められ、逆に動脈硬化を防止する善玉アディポネクチンが1・3倍に増加しました。柔らかい食事の定着で子供から高齢者まで衰えてしまった噛む力を見直さねばなりません」と言います。
 「慢性的なストレスは脳梗塞の危険因子でもありますが、もうひとつ脳がストレスを感じると下垂体から副腎皮質刺激ホルモンACTHが分泌され、このホルモンは海馬の神経細胞死にもつながります。その他心臓をドキドキさせるアドレナリン、血圧を上げるノルアドレナリンも上昇します。しかしガムチューイングをしながらストレスを与える検査では、これらのストレス物質の血中濃度が抑えられ、MRI測定でもストレスと関係の深い扁桃体、前頭前野の活動が格段に小さくなることが認められたのです」とも。
 嗜好品と思っていたガムに認知症大国を救う可能性を見出した小野塚先生の研究も画期的ながら、そもそもガムを噛める歯や口腔環境がなければ、お話になりません。
 「10年ほど前咀嚼と脳の関係の講演に行ったスウェーデンで認知症ケアの素晴らしい取り組みを見ました。ハウジングケアといい、認知症ケアのスペシャリストと家族、隣人が協力して最後の最後まで、普通の生活をしようというものでした。日本で言えばハート・リング運動の趣旨そのもの。研究者として私もそうした社会の実現に貢献してゆきます」
 小野塚先生の認知症に対する熱い思いは終わりを知らないようです。


 

小野塚實
日本体育大学保健医療学部 教授 医学博士・理学博士
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