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ハート・リング通信 2015年

第14回 2015年2月

音楽のちからを信じて

シンガーソングライター 川江美奈子さんのメッセージ

ハート・リング運動 専務理事 早田雅美

 認知症サミット日本後継」というイベントに、ハート・リング運動を応援して楽曲を提供くださった川江美奈子さんから、素敵なメッセージが届きました。

 

 友人が「あらためて音楽ってすごいね!」というメッセージと共に映画『パーソナル・ソング』(原題:AliveInside)を教えてくれました。

 認知症の方に思い入れのある曲を聴かせたら、内なる力や記憶を呼び起こせないだろうか。その試みのドキュメンタリーです。映画には、かつて好んだ音楽を聴き、みるみる目に輝きがあふれだした老人が映し出されています。

 実は私にも介護の経験があります。亡くなった祖母は晩年、パーキンソン病とアルツハイマーを併発し、記憶があやふやな時間と覚醒した時間を行き来しておりました。

 生まれてから日本にお嫁に来るまでアメリカで育ち過ごした祖母は、とてもプライドが高く品を大切にする、孫の私が言うのもなんですが貴婦人のような素敵なレディでした。家族の誰もが、そんな背筋の伸びた祖母を誇りに思っていて、特に私の父や叔母は、変わってしまった祖母の姿や行動を受け容れがたい瞬間もあるようでした。

 ある時、祖母のそばに小さなキーボードを持っていき、アメリカのオールドソングブックの中から古い民謡を弾いたり、祖父の好きだった賛美歌を弾いたりしてみたのです。祖母はすぐにふわーっと顔をほころばせて、少し震えながらも流暢な英語で一緒に口ずさみ始めました。うわー。さっきご飯を食べたことを忘れてしまっても、少女の頃に歌った歌は祖母の中に生きているのだなぁと、純粋に驚き、人ってすごいな、と思ったことを憶えています。

 時は流れて、私は人の娘を持つ母となり、今改めて、音楽のちから、ということを前向きに考えています。毎日飽きるほど一緒に歌っているこの歌が、いつかこの子がおばあさんになった時、懐かしく温かい大きな波を呼び起こす、そんな音になるのかもしれない。もしも家族の顔を忘れてしまっても、家族の中にあった空気や気配や安心を、再び運んでくれる音になるのかもしれない。開け忘れていたプレゼントを開けるみたいに、いつか娘たちに魔法の音が届いたら、それは素敵なことだなー、そんな風に考えたら、同じ曲を繰り返し繰り返し歌うのも悪くないな、なんて思っています。

 誰かの「いつかの音」になることを夢見て、音楽のちからに恥じることなく、私も自身の音楽を作り続けたいと思います。

川江美奈子

シンガーソングライターとして歌い続けながら、中島美嘉、今井美樹、一青窈、平原綾香、郷ひろみ、など多くのアーテ ィストに楽曲を提供している。 2013年には新たにバンドTravelling Circusを結成し、その活動の幅を広げている。

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