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ハート・リング通信 2016年

第33回 2016年10

エアコンあるのに屋内で熱中症
認知症ならではの猛暑リスク

ハート・リング運動 専務理事 早田雅美

 今年の夏も猛暑が続きました。熱中症で医療機関に搬送される方が各地で増え続け、消防庁の発表では 8月15日からの 1週間に全国で 5,440人が搬送されたそうです。そのうち65歳以上の高齢者が43.8%を占めたとか。
 朝日新聞の報道によれば、東京都監察医務院の死因調査で、この5年間に都内で熱中症によって死亡した人の9割、 328人が屋内で発見されており、うち138人は、エアコンがあるのに発見時に使われていなかったそうです。データとしては出てきませんが、この中に「認知症」の方が多く含まれているのでないかと思います。
 私も両親の介護で次のような体験をしています。
 アルツハイマー型認知症だった父がデイサービスにお世話になっていた時、マイクロバスで送り届けられ帰宅してくると、いつも着替えさせたくなるほど汗をかいていました(本人に自覚はないようでした)。ある時事業所の担当者にそのことを伝えたところ、 CO2による環境負荷に配慮していた運転手さんが、お年寄りの家に着く度に車のエンジンを切り、エアコンも切れていたということが分かりました。なにぶん真夏の車内、都度あっという間に車内の気温が上昇していたのでした。その車内に「暑い」と口に出せる人は、いなかったのです。熱中症に倒れる人こそ出なくて済みましたが、わずかな油断でリスキーな状態が生じていました。
 今年8月には、現在在宅介護しているレビー小体型認知症の母でも、小さな油断からリスキーな状態を招き主治医に厳重注意を受けました。ほぼ寝たきりになっている母を、エアコンの効いた室内で、体が冷え過ぎないようにタオルケットを首まで掛けて寝かせ、 1時間半ほどして覗いてみると母の額に玉のような汗、つ
らそうに肩で呼吸をしています。目を離している間に、息子が「部屋が暗くてかわいそう」とカーテンを開け、時間が経って直射日光が直接母に降り注ぐようになっていたのでした。
 今の時代、認知症はありふれたことである一方、ある程度進行した認知症の方の場合、自身の身に迫る危機に対して、多くの場合は受け身であり無力です。介護や看護をする周囲の者は、先回りで細心のリスク回避策を講じることが求められます。それを独居や老老介護の世帯に求めるのは、ハッキリ言って無理だと思います。
 当コーナーでも一度ご紹介をしたことがありますが、オフィス向けに室温や照明を自動で管理する省エネ技術を内田洋行が開発しています。こうした企業の持つ優れた知見を、どんどん社会福祉の分野でも取り込んでいきたいものです。せめて認知症独居世帯には室温や湿度管理をするセンサーが無料設置される、そんな時代がくれば、認知症高齢者が熱中症で命を落とす、といった悲しいニュースも大きく減るのではないでしょうか。

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