ハート・リング通信 2015

第16回 2015年4

認知症、軽度認知障害。そこからの分かれ道。〜木之下徹医師に聴く

ハート・リング運動 専務理事 早田雅美

 ハート・リング運動評議員の木之下徹医師は、認知症訪問診療のパイオニアです。認知症や軽度認知障害を専門に診療する傍ら、「本人の視点」という認知症医療やケアのあるべき姿を訴え続けてきたことでも、とても有名で、著名な認知症専門医や医療者、介護関係者で私淑している方も多くいます。

 「私は認知症を、自分が壊れてゆく病気とは考えていません。確かに脳の変性によって、例えば数分前の出来事を思い出す〝機能〞が低下するなど色々な障害が起こるわけですが、それは〝知的でなくなる〞こととは違います。私の所に来られる受診者の中でも、総体的に見て現時点では平均的な人、例えば私より知的な方は何人もいます。認知症の〝病〞だけを見て、その人の声にならない声に耳を傾けようとしない場合、時には精神病による異常行動とされ向精神薬の対象としてしか見られなくなることがあります。大切な人生や可能性に満ちた未来に蓋がされ、決して良い結果に結び付かないことが少なくないのです」

 確かに私の認知症家族の経験でも、カルテや介護日誌に「暴言あり」「暴力行為」などと書き込まれていた病院や施設も少なからずありました。

 「認知症の方は思ったことや感情をうまく表現したり伝えたりできないことが多いのです。味噌汁の嫌いだった人にデイサービスで無理やり飲ませようとしてしまうこともあれば、ご飯に色々な薬がまぶされていることだってあります。それは嫌なんだと言う代わりに払いのけてしまったのであれば、果たしてどちらが暴力的でしょうか」

 ご本人やご家族をよく理解して、起こっている障害を正確に見極め、必要な薬だけを割り出し、何より人としての生きがいや可能性を引き出すようにしていくことで、結果は大きく違うと言います。訪問診療だけでなく自分も診てほしいという声に押されて、今年1月、東京三鷹市にクリニックを開院、遠方からも相談や治療に訪れるご家族や認知症、軽度認知障害の方が後を絶たないようです。

 「私も含め何年後かに多くの人がきっと認知症になります。その時にいつまでも自分の人生の主役として、生きていて良かったと思える社会や医療をめざしたい」

 医師としての技量が高いだけでなく、人や人生を敬う気持ちで創り出す新しい認知症に優しい医療が、ご本人やご家族に明るく温かい光を差すのだと感じました。

木之下徹医師
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