ハート・リング通信 2015年
第20回 2015年8月
誤解だらけの認知症 〜フォーラム『認知症の新・常識』から〜
ハート・リング運動 専務理事 早田雅美
一般の方の中には、認知症に様々な誤解を持っていらっしゃる方が少なくありません。認知症になると何も分からなくなる。何も感じなくなる。認知症は恥ずかしい病気。認知症は治らないから早く見つけても仕方がない。認知症は怠け病。認知症になると徘徊や妄想などの症状が必ず出る。これらはすべて誤解です」
これは、6月7日にハート・リング運動と読売新聞社が共催したフォーラムで、国立長寿医療研究センターの武田章敬在宅医療・地域連携診療部長が講演されたことです。
「誤解の結果何が起こっているかというと、受診や治療の開始が遅れてしまったり、本人の意思が無視されてしまうことから周辺症状が悪くなったり、虐待につながったり、オレオレ詐欺などの経済被害に遭ってしまうというようなことです」
確かに家族の認知症を、臆せず他人に語れる人はまだ多くはないはず。そうしたクローズドな社会環境こそ、誤解を一向に払しょくできない原因の一つかもしれません。
「認知症を病名だと思っていませんか?認知症は症状を指す言葉で、色々な疾患がその原因となっています。分かりやすく言うと、腹痛は症状で、腹痛を起こす胃潰瘍とか胆石などが病名です。認知症を来たす疾患はたくさんあります。アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症などの他にも、梅毒やビタミンB1欠乏症、内分泌的な病気でも起こり得ます。私のもの忘れ外来の患者さんでも、CT検査で脳腫瘍が見つかり脳神経外科で手術したという場合もあります」
不安があるのであれば、できるだけ早く専門医療機関を受診するように、というお話でした。
最近よく目にする「認知症予防」についても、お話がありました。
「医学的に見て残念ながら現時点で100%認知症を予防できる方法も食品も、世界中どこにも存在しません。これまで予防の効果があるとされているものは観察研究によるものが多く、科学的に厳密な介入研究の成果がようやく出始めたところです。ですから、認知症になった人を見て、運動しなかった人だろうとか、何かを食べなかった人だろうとか、趣味のない人だろうということは誤りです」
自分が認知症になったら誰かの迷惑になりたくない。そんな言葉を聞くこともあります。
しかし「軽い認知症の方を対象にした東京都の調査によれば、9割弱の方が今住んでいるところに住み続けたい」だそうです。
イメージや憶測でなく、正しい知識こそがまずは大切な一歩であることを、武田先生のお話から強く感じました。
武田章敬医師