ハート・リング通信 2014年

第6回 2014年5月

サクラサクで息子役を演じた 緒形直人さんにインタビュー

ハート・リング運動 専務理事 早田雅美

 「僕が初めて認知症を現実の問題として知ったのは、大好きだった母方の祖母を病院に見舞った時のことでした。あなた誰なの? 80歳を過ぎた祖母が、その時一緒だったおじにかけたショックな言葉を聞いて、思わず物陰に自分の身を隠したことが忘れられません」
 映画『サクラサク』で、認知症の父を抱え、働き盛りの職場と崩壊しそうになる家族の板挟みに苦悩する役を演じた緒形直人さんは、そんな思い出を語ってくださいました。
 「ぼけてしまったらどこかで預かってもらうしかないのかな? 認知症の現実を知らなければ、僕もそんな風に簡単に言ってしまう一人だったかもしれませんね。演じた時いつも考えていたことがあります。自分にとって大きな存在だったはずの父親が初めて見せる弱さや不安に怯える姿に接した時、息子の自分ならどう受け止めどう行動するだろか。この映画のテーマの一つでもあるのですが、たとえ認知症であってもなくても、人間は心で生きています。だからその心で接してゆくことで奇跡が起こる、そんなことを願う姿を表現してみたいと思ったんです」
 ストーリーは、緒形さん演じる俊介が、自分の取締役昇進のかかった会議も捨て、家族みんなを連れて父の心の故郷を探す旅に出ることでクライマックスへ向かいます。
 「現実にはそんなに甘いものじゃないと言う方もあるかもしれませんね。でも、そうした日常から視点を変えた出来事や考え方の転換が、実際の生活の中でも小さな奇跡を起こしうるものだと僕は信じたいです。日本には400万人を超える認知症の方がいると聞きましたが、どこのご家庭にいつ起きてもおかしくない身近なことだと思います。たくさんの若い方にも観てもらって、家に帰ってからご家族で話してみるきっかけにでもなったらうれしいと思っています」
 仕事と介護の板挟みで離職する方は年間10万人を超えると言います。緒形さんの言う奇跡がたくさん起きることを願う一方で、全国の“俊介”さんに対する社会の理解と応援が進むことを願わざるを得ません。

インタビューに答えてくださる緒形さん
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緒形直人
俳優。1988年デビュー作『優駿ORACIÓN』で日本アカデミー賞新人俳優賞、ブルーリボン新人賞など数々受賞。人気ドラマにも多数出演。『わが心の銀河鉄道宮沢賢治物語』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。4月5日公開の田中光敏監督作品『サクラサク』では、認知症の父をもつ俊介を好演する。共演は藤竜也、南果歩、矢野聖人、美山加恋ら。原作・主題歌さだまさし。

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