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ハート・リング通信 2014年

第9回 2014年8月

行方不明1万人報道 “徘徊”と呼ばないで

NPO認知症ラボ 尾崎純郎理事長に聴く

ハート・リング運動 専務理事 早田雅美

 認知症で行方が分からない高齢者の数が全国で1万人を超えた」というニュースを目にされた方も多いと思います。私自身もかつて母の捜索に警察犬までお願いした経験があり、当事者としては耐えられない心配事です。
 「徘徊という言葉は~目的もなくうろうろ歩きまわること~ですが、認知症の方は違います」と語るのは、編集者やNPO代表として20年近く認知症に取り組んできている尾崎純郎さんです。
 「実家に帰らなくては、息子に食事を作ってやらねば、むしゃくしゃするから気分転換したい……など、認知症の方のいわゆる“徘徊”と呼ばれる行動には、その人なりの目的があるということは今や常識です。そこを無目的で意味不明な行動と理解してしまうことで解決を遠ざけてしまっているのです」
 「認知症を取り巻く歴史は、“問題行動”、“脱園(施設から出てしまう)”など、管理側が作り出してきた言葉に満ちていたのです。それが偏見にもつながるのですが、こうしたことがなくならない原因の一つには、医療や介護の現場で、一人ひとりの気持ちや状態を深く分析して対処する余裕がない環境もあると思われます」と言います。
 たしかに亡父を入所させていた施設で「職員の手が足りていない」という説明を受けた記憶があります。そこは、認知症入所者をぐるぐる円形に自由に歩かせておく回廊式と呼ばれるタイプの施設でした。「今ではその回廊式も正しいアプローチではなかったと分かったのですが、認知症に対する正しい知識と理解が広がるにつれてしだいに偏見や不理解も減っては来ています」と尾崎さん。
 「最近の行方不明者の報道を見ていると、“ご家族はさぞ心配だったでしょう”というコメントはあっても、ご本人はどんなに不安だったでしょう、という視点はありません。はじめにお話ししたように認知症の方の行動には理由があるのです。ご本人の立場と視点で見つめ直していかなければ、“困った問題”は永遠になくならならないと思います」
 高齢者の行方不明は命に関わる話ではありますが、尾崎さんも心配しているように「認知症の人は歩き回らないようにさせておこう」などという非道な論議にならないことを祈るばかりです。


 

尾崎純郎
大手介護福祉系出版社から独立後、編集者として活躍すると共に、認知症の啓発活動に従事。NPOハート・リング運動理事も兼任。

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