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ハート・リング通信 2015

第17回 2015年5

アイデア・リフォームで支える在宅の暮らし

ハート・リング運動 専務理事 早田雅美

 大手住宅販売会社に勤めていた一級リフォームスタイリストの宗泰三さんは「小さくても下請けでない住宅リフォーム会社」をめざし、4年前に自分の会社を立ち上げました。神奈川県を中心に「現場」を走り回る毎日です。

 「トイレの近くにシャワーを付けたらどうでしょう」。重い認知症の要介護5のお母さんを介護するあるお宅では、宗さんのそんなアイデアで排泄後の処置が大きく変わりました。寝たきりに近いため、それまではヘルパーさんたちによるベット上での清拭が基本で、たとえトイレに連れて行っても「ウォシュレット」では湯量が足りませんでした。シャワーを付けた後は、トイレに座ると反応するまでに、お母さんの感覚も戻ってきたと言います。

 「僕は介護事業者ではないし、特に介護に詳しくもありません。でも前職時代、自分の売る家で、そのご家族がどんな生活をされるのだろうと自分まで夢でいっぱいだった頃がありました。そんな影響か、リフォームで呼んでいただくと、お節介にもその家で住みにくいところはないか、使いにくい間取りになっていないか、と探す癖がついてしまっているのでしょうね」

 宗さんによれば、建築の仕事は、営業の人、見積もりする人、職人、問屋などがチームで行い、1人でできる仕事ではないとのこと。特に大手の会社では、営業マンは現場をあまり知らないままお客さんの前に出ていることも多くて、もっと良いリフォームができるチャンスを見逃がしてしまうことも少なくないと言います。

 「昨年、やはり認知症の方の住むお宅に呼ばれて、浴室工事や手すり工事、キッチン交換などをさせていただきました。認知症ですから、なかなかお話しすることが難しい。工事を始めながら、とにかくそのおばあちゃんの動きや、暮らし方をよく見ていました。すると色々なことが分かってきます。建築上の推奨の高さでは手すりが高過ぎるとか、ここにこんなスイッチが付けば楽になるだろうとか……。とにかくよく見ることが重要な気がします」

 介護を受ける側や家族たちには、どういう工事が暮らしを変えてくれるかイメージすることすら難しく、宗さんの実践しているような、よく知ること、よく見ることから生まれるプロのアイデアは貴重です。

 工事によっては在宅介護のための住宅改修に公的な補助が受けられる場合もあります。そうしたお金の情報も重要ですが、先のトイレ脇のシャワーのために一晩かけて部品を加工した、という使う人の暮らしやすさに向けられた一つひとつの想いが、在宅介護でも大きな力になるのではないかと思いました。

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