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ダイジェスト動画の公開は、終了いたしました。

~講演概要~

『くらしを支える認知症の最新知見』

武田 章敬 先生

国立長寿医療研究センター 在宅医療・地域連携診療部長/神経内科医

 認知症とは脳の疾患によって記憶や判断力などの認知機能が障害され、日常生活に支障を生じた状態のことを言います。一方、認知機能が障害されても日常生活に支障がない状態を、軽度認知障害と呼びます。日常生活の支障とは買い物、服薬管理、金銭管理、外出、調理、更衣、排泄などの障害のことですが、これらの障害を適切に把握することが認知症の人への適切な支援につながります。 

認知症は様々な原因によって起こりますが、我が国では、アルツハイマー型認知症が7割弱を占め、次いで血管性認知症、レビー小体型認知症や認知症を伴うパーキンソン病の順となっています。 

 認知症の診断に関しては、症状や認知障害を評価するとともに頭部MRI検査や脳血流シンチグラフィーなどが使われています。現在、アルツハイマー型認知症の早期診断のためにアミロイド・イメージングや血液検査の開発が進められたり、レビー小体型認知症の診断のために脳ドーパミントランスポータ検査が使えるようになっています。 

アルツハイマー型認知症の根本的治療薬については、これまでの試験では有効性を確認できたものはほとんどありませんが、最近の研究結果を踏まえてベータアミロイドを標的としたより早期の治療やタウを標的とした治療などの検討が行われております。 

 認知症の人や家族を支えていくために、認知症の人は強い不安の中にいることを理解し、生きがいを持って暮らせるよう支援する必要があります。地域に住む人は認知症の人や家族に対して声かけやねぎらいの言葉、話し相手になることなどを通じて力になることができます。 

 認知症の予防に関しては身体運動の重要性が認識されつつあり、特に脳と身体の課題を同時に行うことの有効性が明らかになりつつあります。ただ、現時点では認知症を完全に予防できる方法はありませんので認知症の人に対して偏見を持たないことも重要です。 

『認知症の口を支える視点』

平野 浩彦 先生

東京都健康長寿医療センター研究所社会科学系専門副部長/歯科医

 歯科界の保健活動の一つに8020運動があります。ご存じの通りこの運動は、1989年より厚生省(当時)と日本歯科医師会が推進している「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動です。運動が始まった当初、その達成者の割合は1割にも満たない状況でしたが、2011年には約4割、次の全国調査が行われる2017年には半数近くの方が「8020」を達成すると予測されています。以上のような8020運動に代表される「歯の健康」改善が成し得た要因として、歯科医療の進歩もありますが、国民の皆さんの「歯の健康」への意識が格段に向上した点が大きいと考えられています。 

 さて今回のテーマの認知症は、様々な日常生活の不具合を生じさせます。これは日常生活を支える機能の低下が原因で生じますが、例えば、遂行機能障害(料理の作り方の段取りがとれず作れなくなるなどの障害)、失行(道具の使い方が分からくなってしまう)などがあります。こういった機能低下により、「歯ブラシをすることを忘れてしまう」「ブラッシングのやり方が分からなくなってしまう」「歯ブラシの使い方が分からなくなってしまう」等が起こり、「歯の健康」を支えた大きな後ろ盾を失う可能性が高まります。つまり、「認知症」により8020運動でせっかく残した多くの歯が、う蝕や歯周疾患に蝕まれるリスクが高まってしまいます。こういった中、歯科分野においても、これらの課題への対応整備が急速に行われており、2015年1月に出された新オレンジプランの中にも歯科医師の認知症対応力向上研修実施が盛り込まれました。また、日本歯科医師会、日本老年歯科医学会が連携して認知症の人への歯科医療に関する具体的な対策が検討されています。 

 当日は以上の点も踏まえ、「認知症の口を支える視点」についてお話しました。

『噛むことと認知症の深い関係』

小野塚 實 先生

日本体育大学保健医療学部教授 

 半世紀以上前の日本を振り返ってみると、国民のほとんどは豊かではありませんでした。 

もちろん認知症の問題は存在していませんでした。世界的に見ても、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカ、日本という地域で見てみるとアジアやアフリカのほうが認知症の発症率は低いと想定されるのです。豊かな地域ほど認知症が多いらしい。このことは、実は認知症と生活習慣病との間に深い関係があることを示唆していると考えられます。実際にこの30年で、認知症は20倍、生活習慣病の代表格である糖尿病は37年間で34倍に増えているというデーターがあります。私たちの実証研究によると、中高年を対象に食前10分間のガムチューイングを9週間続けたところ、糖尿病因子であるHbA1cの明らかな減少が認められ、逆に動脈硬化を防止する善玉アディポネクチンが 1・3倍に増加しました。糖尿病も動脈硬化も認知症の危険因子であることが分かっています。もうひとつの発見はガムチューイングがストレス発散を誘発することです。現在はストレス社会です。脳がストレスを感じると副腎皮質からのグルココルチコイド分泌が亢進し、このホルモンが記憶形成に重要な海馬の神経細胞死を引き起こします。 今や糖尿病や慢性化しているストレスは国民的な課題になっています。 柔らかい食事の定着で子供から高齢者まで衰えてしまった噛む力には、このように健康課題を解決してくれる役割が期待できるのです。12年ほど前にスウェーデンのストックホルムの研究所に招かれて、スウェーデンにおける認知症への取り組みを見てきました。ハウジングケアといって最後の最後まで自分の家に居て、それに対するケアを受けていました。自然の沐浴をしたり思い思いの時間を過ごします。社会で認知症にやさしくしてゆこうということが定着しているようでした。 

 日本もそうした社会になることを期待しています。 

ハート・リングフォーラム 認知症の新・常識2015

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