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ハート・リング通信 2015

第19回 2015年7

認知症を笑顔で表現してみたい 〜白土謙二さんに聴く

ハート・リング運動 専務理事 早田雅美

 大手広告会社を代表するクリエータとして、様々なキャンペーンや、コミュニケ―ションの企画、企業やNPOなどの抱える課題解決に活躍してこられた白土謙二さんにお話をお聴きしました。

 「正常性バイアスという言葉をご存じでしょうか。自分にとって都合の悪い情報を無視したり、あえて考えないでおこうとする人間の思考特性のことで、重大な被害が予想される状況下でも、〝自分は大丈夫〞〝まだ大丈夫〞などとわざと過小評価したりして安心し、結局逃げ遅れの原因となったりすることを指します。震災などで話題となりました。〝認知症〞にもこの正常性バイアスが働いているのではないかと感じています」

 「正しい情報を、分かりやすく、納得してもらえるように伝えることが、今こそ大切。怖い情報や暗い情報、希望の無い情報だけでは、人は耳を閉ざしてしまいます」

 確かに、地域の認知症公開講座などでは、詳しい反面、「できなくなること」に注目するあまり、帰り道には気が重くなることも多いものです。

「デザイナーの林容子さんがアートの力で認知症の進行を防ぐ取り組みをされていますが、立場や専門領域を越えた多様な立場の人々の協力で、社会に役立つアクションが広がることもあります」

 「認知症の方々を、私たちの社会は柔らかく閉じ込めてしまっています。私自身の身内の認知症体験では、医師に頼んで、飲んでいたメンタル系の薬を2年ほどかけて減らし、本人らしさを取り戻しました。大好きだった天ぷらを再び食べに行くという単純な目的も、素敵な変化をひき起こしてくれました。休み知らずの働き者だったある農家のご婦人は、身の回りの世話を完璧に職員がやってくれる施設に入って、急速に元気を失いました。彼女にとっては、食器の上げ下げやらテーブル拭きなども、本当は自分でやりたくて仕方ないこと。サービスはかえって『ボーっとさせられている拷問』のようなものでした。人間の生き方や志向は多様です。その人の本当の思いや価値観が、もっと多様に尊重されるべきではないでしょうか。大喜びで老いてゆく人は少ないでしょうが、その姿は、年老いてゆくことや死と向かい合う方法を、後に続く人たちに教えてくれている人生の先生ではないか、と最近感じるようになりました。『認知症になることはいいことだ』。そう言われるような未来がやってくるためにも、私ならば、悲しい顔や怒った顔、困った顔でなく、笑っている明るい表情で認知症を表現する方向を、もっと探っていきたいと考えています」

 認知症のどこにフォーカスして、どう伝えてゆくかが大切であることを、白土さんのお話から感じました。

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